『わかる』ハシモト会長かく語りき

第9話  表の人生やろうや「金が生きてる」

さて、材料を買わなぁあかん。
町の問屋はケツの穴の小さいやつばっかりで、こんなやつに頼んでもおもろうない。
もっと田舎の太っ腹の親父と商売しようと、和歌山、兵庫へと行ってみたんや。
そうしたら、おったがな。

分けてもらうにも、金あらへんから、「革、貸しておくんなはれ」と言うわけです。
金もないのに、六千万円分の材料を買うてきたものですね。
担保は、私の手と耳。
どこ行ったかて「貸してくれ」って調達してくるんです。

その代わり、集金したらその日に金を持って行く。
夕方もらったら夜中でも、相手が寝てようと届けるんです。
「寝てるところを起こしやがって」って怒られても、「あんたは寝てられるけど俺は寝てられへん。取ってくれ」って。

そんなんやから、うちの会社まで集金にきたお取引先は一社もありまへん。
同じ金なら取りに来てもらうより、届けるほうが値打ちありますやろ。
例えば、11時頃,小切手で集金したと仮定しますね。
その金はその日中には使えない。

でも、こちらから朝までに材料屋に届けたら、その朝から使えるわけでしょ。
この一日っていうのは商売してる人間にはどれだけ大事か。
大きいんです。わかる?

同じ金でも使いようで、金が生きるんです。

生きてる金を使うと、最初は信用がなくても、必ず、信頼されるようになる。
いまだにそうねん。


この連載について

「革っちゅうもんはなぁ、、、。」本物の革とは、商売とは、人間とは?
クアトロガッツを始めた頃に革屋さんではじまった人生談義。
それがハシモト会長との出会い。

80歳を超え、戦後からの日本を生きてこられてきた中で培われたその稀有な人生哲学と大阪ならではの人情味あふれる人柄。
「そや、ここに紙があるやろ。俺らは今までこの紙の裏をやってきたんや。いっぺん表をやろうと思うんや。」
珠玉の言葉を噛み締めていただければと思います。

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