『わかる』ハシモト会長かく語りき
第29話 証言「いつでも 帰ってこいや」
Fujio Nishida
西田藤夫 画家
私は絵を描きたかった。
ただ、絵を描きたかった。
自分が自分であるために、絵を描きたかったのです。
イタリアへ行くと決めた時、周囲はみな大反対でした。
しかし出発が近づくにつれ、今度は皆がかけてくれるのは決まって、「頑張れ」、「成功するまで帰ってくるな」という激励の言葉ばかりで、自分のテンションも次第に上がっていきました。
そんな時、橋本さんから「いつでも帰ってこいや」とまったく気が抜けるような、思いもかけない正反対の言葉をかけられました。
その一言で、悲壮感すらあった気分が、一気に楽になったことを、今でも覚えています。
「私の生き方に価値を見出し、常識にとらわれることなく、逆の視点から、今何が一番大切かということを見抜く眼力に驚き、その優しさにこころが沁みわたりました。

橋本さんがイタリアに来られると、いつも沢山 のお土産を頂戴します。
ある時、拙宅にやってくるなり「えらいすまん、せっかくの一升瓶をそこで落として割ってしもた・・・もったいないことした・・・」と。
謝ることなんてまったくないんですよ。
日本から一升瓶を抱えてイタリアへ来てくれたのですから。
それが、橋本さんなんです。
日本を発って三十有余年、おかげさまで、イタリアで低空飛行ながらも絵描きの道を歩めるようになりました。
しかし、「いつでも帰ってこいや」という最初の言葉の意味するところが、年月経てば経つほどに、私の胸の中で重みを増してきてい ます。
この連載について
「革っちゅうもんはなぁ、、、。」本物の革とは、商売とは、人間とは?
クアトロガッツを始めた頃に革屋さんではじまった人生談義。
それがハシモト会長との出会い。
80歳を超え、戦後からの日本を生きてこられてきた中で培われたその稀有な人生哲学と大阪ならではの人情味あふれる人柄。
「そや、ここに紙があるやろ。俺らは今までこの紙の裏をやってきたんや。いっぺん表をやろうと思うんや。」
珠玉の言葉を噛み締めていただければと思います。
『 わかる。ハシモト会長かく語りき』