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『老ナルキソス』

5月20日(土)より新宿K’s cinema、5月26日(金)より、京都みなみ会館、5月27日(土)より第七藝術劇場ほか全国順次公開。

監督・脚本:東海林 毅
出演:田村泰二郎、水石亜飛夢、寺山武志、日出郎、モロ師岡、津田寛治 千葉雅子、村井國夫ほか

老ナルキソス
劇場情報

 
 最近、ファッション評論家でタレントのピーコさんが失踪、実は高齢者施設に入所していたというニュースが流れ、追い打ちをかけるように、万引きで逮捕されていたという続報も聞かれ、さらにそれが認知症が原因の一つであると知り、ショックを受けた。

 ゲイ当事者としたら、自分がそうなってもおかしくないかもしれないと抱いていた不安が、余計にリアリティを増した出来事だった。
 人生百年時代なんて言われて久しいけれど、正直、個人的にはそれほど長生きしたいという願望はない。ましてや長患いまでして長生きしたいなんて思わない。

 それでもゲイの宿命か、どうせ死ぬなら、それまでなるだけ、いろんな意味で“綺麗”でいたいと、年齢にケンカを売るかのごとく、色々と内面、外面に対して抗っている。が、確実に歳は取っていく・・・。

 今回、紹介する映画「老ナルキソス」は、そんな歳を重ねた老人ゲイが、ウリ専の若者に恋をする物語。
 ただ、その老人・山崎は若い頃からプライド高く、それなりに稼いでいるのでマウント取りたがりでナルシストのかなりヘンコなゲイ。

 が、現実はやはり厳しい、絵本作家としてもスランプに陥ったまま、さらに孤独に苛まれている。そんな時に欲望のハケ口としてウリ専を利用し、指名したレオと出会ったことで、人を好きになるという感情を改めて知る。

 今作を見ながらルキノ・ヴィスコンティ監督の老作曲家が、避暑地で見つけた美少年に一方的な片思いを捧げる映画「ベニスに死す」や、引退して老人ホームに入っている美容師がかつてあることで決別した顧客の死化粧を依頼される「スワン・ソング」という映画を思い出しつつ、日本を取り巻く環境、気質、そして独特の世界観が織り込まれていく展開に、共感したり、感嘆したり、キャラクターに呆れたりしていた。

 特に、ある場面で山崎の古くからの担当編集者の女性が彼に言う「人生の終わりになって、手に入らなかったものを数えてあがくのは惨めだわ」とセリフ、そして昔の付き合っていた人と別れた時のことを馴染みのゲイバーのマスターから詰められた場面で山崎が言った「そういう時代だったろ」という老いた者の諦めとも言えるセリフが、胸にズドンときた。

 反面、ウリ専で働くレオは、同棲している彼氏がパートナーシップ制度を利用しようと提案される。これから老いていく世代が時代を変えていこうとする、そういった行動の対比に、その狭間にいる自分自身は複雑に感情が揺れた。



仲谷暢之
大阪生まれ。吉本興業から発行していた「マンスリーよしもと」の編集・ライティングを経て、ライター、編集者、イベント作家として関西を中心に活動。


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