
『レズビアン・スペース・プリンセス』
2026年10月2日(金)新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開
監督・脚本 リーラ・ヴァーギース、エマ・ハフ・ホブス
声の出演 シャバナ・アゼース、バーニー・バン・ティエル、ジェマ・チュア=トラン、リチャード・ロクスバーグ 他
レズビアン・スペース・プリンセス公式サイト
今回はレズビアンを主人公にしたアニメ『レズビアン・スペース・プリンセス』を紹介。
【あらすじ】 惑星クリトポリス――そこはレズビアンが統治する星。数千年にわたり、伝説の武器〈ラブリュス〉を呼び出す力を持つ“クリトピアン”の一族が統治してきた。しかし、内気なプリンセス・サイラだけは、どうしてもその力を使うことができない。23歳の誕生日。賞金稼ぎのガールフレンド・キキから、「愛が重すぎる」と突然フラれてしまう。必死に説得を試みるも、キキは新たな冒険の旅へ出てしまう。
ショックのあまり部屋に閉じこもり、泣きじゃくるサイラ。ある日突然、かつて宇宙最強を誇った“ストレート・ホワイト・メイリエンズ”から脅迫の電話が。キキを救いたければ、宇宙一危険な惑星まで〈ラブリュス〉を持って来い――。
元カノを救うため、残された時間は24時間。サイラはネット掲示板の怪しげな情報を頼りに、自分の内に眠る〈ラブリュス〉を解放するため、パリピの惑星“Sクラブ17”を目指すことに。壊れかけの宇宙船、そして道中で出会ったミュージシャン志望のウィローとともに、いざ、銀河を巡る大冒険へと向かうが・・・。


主人公のサイラは、インド系女子で恋愛に対してとにかく重い依存気質な惑星クリトポリス王女。対するキキは、どこかノンケのプレイボーイを思わせる遊び人。日本のレズビアンコミュニティのような狭い世界なら噂がすぐに広まり嫌われそうなタイプだが、この二人のいきなりの別れ話からとんでもない話に転がっていくのがまず面白い。


劇中でサイラたちの前に立ちはだかる男たちは、真っ白なリトマス試験紙やポストイットを思わせる平面的なキャラクターデザインで、基本は恋愛希望の草食男子でありながら、昔ながらのマッチョイズムをこびりつかせていて、男はこうなのだ!という典型的な男。見ている観客に身近にいる思い浮かんだ男性を白部分に当てはめてください的な監督の思惑があるよう。


さらにサイラがキキ救出のために乗り込む宇宙船のAIだ。『2001年宇宙への旅』のHALを彷彿とさせるが、歴代の乗組員が男性優位主義者だったため、前時代的で女性を舐め切った発言を繰り返す。その声を映画『ムーラン・ルージュ』で高級娼婦サティーンを強欲に追いつめたウースター公爵役、リチャード・ロクスバーグが演じていて皮肉が効いている。また『ル・ポールのドラァグ・レース』のKween Kongが、ドラァグクイーン役で登場するのもファンには堪らない。


これまでも『サウスパーク』や『スペルマゲドン』などゲイネタや下ネタ満載のアニメはあったけれど、ここまでド直球にレズビアンを主役に据えた下ネタコメディは非常に新鮮で、最後にはちょっとした感動すら残る。
自虐的なミュージカルナンバーも、テイラー・スイフトを想起ニンマリしてしまう。


監督のリーラ・ヴァーギースとエマ・ハフ・ホブスは、クィアカルチャーや現代社会へのシニカルなユーモアに、『少女革命ウテナ』や『セーラームーン』といった日本アニメへの愛を融合させて、わかっている感を“絵”として昇華しているし、ラブリュスを手に入れようとするサイラの深層心理を描く場面は秀逸!


ベルリン国際映画祭テディ賞やシッチェス映画祭2冠など、世界で絶賛されたのも頷ける。
過激なギャグの奥に「自分を愛すること」への優しいまなざしが光る、刺激的で温かいSF“下ネタ”ブラックコメディとして記憶に残るはず。
仲谷暢之
大阪生まれ。吉本興業から発行していた「マンスリーよしもと」の編集・ライティングを経て、ライター、編集者、イベント作家として関西を中心に活動。
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