『わかる』ハシモト会長かく語りき

第43話 証言「駒井くんがいるから ゆったりした雰囲気になっているんだよ」

駒井 友未子
「旬菜」オーナー

厨房に入ったこともない主人は、活躍の場がないのです。

店に立つ主人の姿に、惨めだと思う友人、自由になれて良かったという友人、それぞれでした。

それでも、革が好きで、ものづくりが好きな主人でしたから、二、三年経てばほとぼりが冷め、ものづくりができるだろう。

今は、そのための充電期間と自分に言い聞かせていました。

「旬菜」はいろんな方に支えられ、軌道に乗りはじめたのですが、主人は相変わらず、得意先や仕入れ先の情報整理や帳面の記帳ばかりで、ペースが全然違うのです。

「豚の角煮を見てて」と頼むと、焦げても見ている。

主人に苦手なことをさせて悪いと思いながらも、何でも やらなければならない私のフラストレーションは募るばかりでした。

料理ができれば花になるけど、主人はできない。

だからといって運ばせるのは気の毒。

カウンターの中でお酒をつくっても、なかなかうまくいかない。

オーディオルームに逃げてはギターを弾く主人と、「もう、やっていけない…」 と感じる私。

そんな怒りが頂点に達した頃、橋本さんから様子伺いの電話を頂戴し、私は思わず、心の叫びをぶつけました。

すると、橋本さんの受け取り方は違いました。

「あの店は駒井くんがいるから、ゆったりした雰囲気が出ていい店になっているんだよ。あんたの気持もわかるけど、経験のない駒井くんはできなくて当たり前や」

その言葉を聞いた時、すーっと胸のつかえがとれ、素直に耳を傾けることができたのです。


この連載について

「革っちゅうもんはなぁ、、、。」本物の革とは、商売とは、人間とは?
クアトロガッツを始めた頃に革屋さんではじまった人生談義。
それがハシモト会長との出会い。

80歳を超え、戦後からの日本を生きてこられてきた中で培われたその稀有な人生哲学と大阪ならではの人情味あふれる人柄。
「そや、ここに紙があるやろ。俺らは今までこの紙の裏をやってきたんや。いっぺん表をやろうと思うんや。」
珠玉の言葉を噛み締めていただければと思います。

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