『わかる』ハシモト会長かく語りき

第44話 証言「泣いてばかりもいられないよ」

駒井 友未子
「旬菜」オーナー

主人に、「橋本さんが、いい雰囲気の店になっているって言ってたわよ」と伝えると、すごく嬉しそうにしていました。
その一言で、主人も私も救われたのです。
主人の存在が店を良くし、その雰囲気がお客様を和ませる。
確かにそうでした。

近鉄の監督だった岡本伊三美さんやいろんな方に、「ご主人がいたあの店が、目に浮かぶよ」と、今でも言われます。
お店の良さというのは、味の勝負だけではないんですね。
大事なことを気づかさせてくれました。

それから一週間後のことでした。突然、主人は帰らぬ人となってしまったのです。
その一週間、腹の立つことがあっても、不思議と口には出さなかった。
もし、あの状態が続いていたら、私はずっと後悔したまま生きなければならなかったのです。

私が今、力一杯生きていられるのは、あの一週間のおかげなのです。
亡くなる前日、主人は先に戻りお風呂に入ってビールを飲んでいました。
帰り着いた私に、「すごく大変だったと思う。ありがとう」って言ってくれたんです。

今となっては、その主人の言葉と橋本さんの言葉は、私の心の糧ですね。
主人が亡くなった後、呆然としている私に、「従業員がいるんだから、泣いてばかりもいられないよ」と、橋本さんはお歳暮用の薫製をたくさん注文してくださって。

おかげで忙しい毎日に、後ろを振り向かず走り続けてこれました。
その燻製は、関東在住の燻製作りのプロから、唯一、主人がつくり方を教えてもらい、マスターしたメニューだったんです。


この連載について

「革っちゅうもんはなぁ、、、。」本物の革とは、商売とは、人間とは?
クアトロガッツを始めた頃に革屋さんではじまった人生談義。
それがハシモト会長との出会い。

80歳を超え、戦後からの日本を生きてこられてきた中で培われたその稀有な人生哲学と大阪ならではの人情味あふれる人柄。
「そや、ここに紙があるやろ。俺らは今までこの紙の裏をやってきたんや。いっぺん表をやろうと思うんや。」
珠玉の言葉を噛み締めていただければと思います。

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