『わかる』ハシモト会長かく語りき

第45話 証言「口数少なくて わかるって言うだけ」

駒井 友未子
「旬菜」オーナー

国金で借りたお金は、創業から十三年目に完済しました。
駒井の母も世を去り、相続した分もありましたが、唯一主人がゼロからやった事業で、はじめて借金をしてつくった会社ですから、店の稼ぎから返しました。
主人が残してくれた店なのに、花火みたいに消えてしまったら申しわけないですから。

思えば、「橋本さんは、いつもすべてお見通し」と、主人はよく言っていました。
うちのスタッフも、お料理の出し方、タイミングが悪いと叱られ、皆、ひと泣きして成長したものです。
私の代わりに言ってくださるんです。

両方の顔が立つような形で見ておられるんですね。
橋本さんは、ちょっと手に負えない子に鍵を渡して会社を開けさせるとか、親も困っているような子を社員にするとか、うちの主人にしたら驚くことばかりでした。

今でも忘れられないのは、ハシモト産業の社員旅行。
一生に一度行けるか行けないかみたいな旅行を社員全員に休験させるんです。
寝台を一車両借りきったり、一見さんお断りの旅館に泊まったり。

見栄をはっているのではなく、従業員一人ひとりに一生の思い出になるような機会を与えられているんです。
だから、社員旅行ひとつとっても、なにか経験すると、社員の方の目の輝きが変わってくるんです。
さりげないんですね。橋本さんがしてくださることって。

大げさにいうと神様が包んでくれている、導いてくれる。
口数少なくて、「わかる」って。わかったら、先が開けるんです。


この連載について

「革っちゅうもんはなぁ、、、。」本物の革とは、商売とは、人間とは?
クアトロガッツを始めた頃に革屋さんではじまった人生談義。
それがハシモト会長との出会い。

80歳を超え、戦後からの日本を生きてこられてきた中で培われたその稀有な人生哲学と大阪ならではの人情味あふれる人柄。
「そや、ここに紙があるやろ。俺らは今までこの紙の裏をやってきたんや。いっぺん表をやろうと思うんや。」
珠玉の言葉を噛み締めていただければと思います。

『 わかる。ハシモト会長かく語りき』