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「クィア/QUEER」

2025年05月09日(金)より公開[R15+]

監督/ルカ・グァダニーノ
出演/ダニエル・グレイグ、ドリュー・スターキー、ジェイソン・シュワルツマン、レスリー・マンビルほか

上映時間:137分 / 製作:2024年(伊=米) / 配給:ギャガ

「クィア/QUEER」公式サイト
劇場情報


今回紹介するのは5月9日(金)から公開される『クィア/QUEER』。
ウィリアム・S・バロウズの小説を『君の名前で僕を呼んで』や『ストレンジャーズ』のルカ・グァダーニ監督が映画化したもの。

 ウィリアム・S・バロウズ。80年代後半から90年代初めにかけて、急に日本で流行りました。カムアウトしているガス・ヴァン・サント監督の『ドラッグストア・カウボーイ』に出演したり、デビッド・クローネンバーグ監督によって原作の『裸のランチ』が映画化されたりとその数年間、バロウズがサブカル界隈で持て囃されてました。

その時に翻訳出版されてた『おかま』を読んだのだけど、若さのせいもあり、読解力が足りなかったせいもありで、正直よくわからなかった(『裸のランチ』も同様)。
とはいえ、薄すぎる記憶を頼りに今作を見ました。

あらすじ
舞台は1950年代のメキシコシティ。閉ざされたアメリカ人コミュニティで単調な日々を過ごしていた中年男性リーは、ある日行きつけのバーで町にやってきたばかりの美青年ユージーンに一目惚れする。やがて彼との恋は南米への旅へと繰り広げられるが・・・。

読んだ記憶の中で描かれていた汗と体臭と埃にまみれた猥雑で混沌としたメキシコの町の匂いはあまり感じられなかったせいか、すべてが人工的。

ゆえに夢のような幻のような感じが漂っているし、ダニエル・グレイグ演じるリーもとりあえずはお金は持っているけれど、日がな一日、バーでペチャクチャと友人と酒を飲みながらおしゃべりしては男漁りをしており、ユージーンも仕事をしているというけれど、どんな仕事をしているかわからない。女性とチェスの相手をしてる日々。だからこそ前記した、夢か幻のようなのが人物にも当てはまる。

とはいえ、その中で繰り広げられるオヤジと美青年との恋愛は、老作曲家が恋い焦がれる美少年を描いたルキノ・ヴィスコンティ監督の『ベニスに死す』の抑圧されたものではなく、とてもアグレッシブで、二人のセックスシーンはあの007のボンドが!嘘でしょ!と思えるほどの夢どころか生々しく荒々しさの艶技を見せてくれてる。

それ以降はオヤジがまさかの若い子とできてしまったことによってすっかりのぼせ上がり、エッチはしたいけれど、一応建前上ガツガツするのはカッコ悪いから紳士を演じなきゃいけない、嫉妬は抑えなきゃいけない、お金は使わなきゃいけない。

でも結局、追いかけるとツンケンされてしまう、あぁどうしたらいいんだ、もうこうなったらもっと酒に逃げてしまおう、ついでにクスリに走っちゃえ!というお前ええ歳して了見ないんか!というくらい自暴自棄なのか、遅れてきた刹那なのか、かまってちゃん堕落なのかという道を歩んでしまいます。

そしてリーの勢いは止まらず、なぜかテレパシーに興味があるからその感度を上げてくれるというアマゾンのつる性の植物から作られる幻覚薬“ヤヘ”を手に入れたいという願望が持ち上がり、ユージーンを誘って旅立つことに。

そこからさらにリーとユージーンの冥府魔道が繰り広げられるのだけど、それからはぜひ映画館で体感していただきたいです。

個人的にはジャン・コクトー監督の『オルフェ』(作中でも使用されていて、セリフの伏線にもなってる)や、ベルナルド・ベルトルッチ監督の『シェリタリング・スカイ』、マルグリット・デュラス原作でジャン=ジャック・アノー監督で映画化もされた『愛人/ラマン』や、成瀬巳喜男監督の『浮雲』、そして自作の『サスペリア』、デイヴィッド・リンチ監督の『ツイン・ピークス』などの作品への憧憬を読み取れるのが面白かったです。


仲谷暢之
大阪生まれ。吉本興業から発行していた「マンスリーよしもと」の編集・ライティングを経て、ライター、編集者、イベント作家として関西を中心に活動。


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