「君の心に刻んだ名前」

監督:リウ・クァンフイ(柳廣輝)
出演:エドワード・チェン(陳昊森)、ツェン・ジンホア(曾敬驊)、レオン・ダイ(戴立忍)、ワン・シーシェン(王識賢)
Netflixにて配信中


昨年、大阪アジアン映画祭で、世界初上映され、劇場スルーでNetflixで配信された台湾のリウ・クァンフイ監督の「君の心に刻んだ名前」。

1987年、40年に渡る戒厳令の解かれた台湾の、カトリック系の寄宿制男子高校を舞台に、そこに通うアハンとバーディ。
ブラスバンド部で出会った二人はやがて親友に。実はアハンは親友以上の感情を持っていたけれど・・・。でも、学校が女子学生を受け入れることになり、やがて女子新入生のバンバンとバーディが付き合い始めたことで微妙な関係が崩れていく・・・。

台湾のLGBT映画って古くはコン・リー監督の「ウェディング・バンケット」やチェン・ボーリンが人気者になった「藍色夏恋」、むせかえるような「花蓮の夏」といったものが記憶にあるのだけど、今作も挙げた三作同様、2人の男子が仲良くやってたのに1人の女子が入ったことによってわちゃわちゃなるっていう大まかなストーリー。

台湾で1947年に起こった二二八事件をきっかけに1987年まで続いた戒厳令が解除された時に学校に入る二人。社会が変わったものの、まだくすぶる前時代の名残り、カトリック系の学校ゆえの戒律の厳しさ。そこで不器用さと謳歌のバランスを模索しながら過ごす主人公を含めた学生たちの青春の刹那がしっかり描かれていて、台湾と日本の違いはあれど、この舞台と同じ同時代を生きた自分にとって体感したカルチャー、空気感に心が掻き毟られてしまった。

アハンが好きになるバーディは、自分も当時見た時に影響受けたマシュー・モディンとニコラス・ケイジ主演の「バーディ」(この作品でリッチー・ヴァレンスの曲「ラ・バンバ」を知ったなぁ)から。
ワムのポスターがわかりやすく登場したり、雨の公衆電話が出てくるシーンはウォン・カーウェイ監督で、主演の金城武がブレイクした「恋する惑星」だったり、登場する瀑布は場所は違えどまんま、トニー・レオンとレスリー・チャンのゲイカップルの刹那を描いた「ブエノスアイレス」と、あの時代のオマージュがたっぷり。

それにブラバン部に入ってるというのもわかる人にとってはニヤリ。そして主人公二人が台北の街中で見かけたゲイの活動家が、台湾のLGBT権利向上運動の草分けで2019年に成立した同性婚合法化をさせた立役者、祁家威(チー・ジアウェイ)の若き頃だったりと細かいとこまでこだわってはります。

アハン演じる柳廣輝 (エドワード・チェン)が金城武や妻夫木聡を彷彿とさせたり(しかも普段の彼は意外やゴリゴリにタトゥー入れててアガる)、バーディを演じる曾敬驊(ツェン・ジンホア)は、しずるの村上をめっちゃ男前にした感じだったりで、どちらもまぁイケメン。
そして長く引っ張ってすいません、こういうとこ見たかったでしょっていうシーンがエンディングに用意されてるし。「ダニーボーイ」が効果的に使われていたり、盧廣仲(クラウド・ルー)の曲が泣かせたり、30年後の主人公たちの姿で昔と今の台湾の様子をしみじみと感じさせたり(現在のアハンを演じるのが戴立忍(レオン・ダイ)でイケオジ!)と今作に対する熱量が素晴らしいので必見。


仲谷暢之
大阪生まれ。吉本興業から発行していた「マンスリーよしもと」の編集・ライティングを経て、ライター、編集者、イベント作家として関西を中心に活動。


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