(c) 2021 Swan Song Film LLC

「スワンソング」
2022年8月26日(金)全国順次公開

〜それでも人生は素晴らしい。人生に悔恨を残さぬために、伝説のヘアメイクドレッサーが親友のための最後のメイクへ。実在の人物をモデルに描いたロードムービー〜

監督/トッド・スティーブンス 出演/ウド・キアー、ジェニファー・クーリッジ、マイケル・ユーリー、リンダ・エヴァンス

スワンソング公式HP
劇場情報

「スワン・ソング」  久しぶりの今回ご紹介する作品は新作。
人は誰しも歳を取る。それは世の摂理。問題は歳を取った自分とどう向き合い生きるか。

老人ホームで気難しい顔をしながら日がな一日、尋常じゃない量の紙ナプキンをたたんでいる老人パトリック・ピッツェンバーガー(通称・パット)。孤独を楽しんでいるわけでもなく、孤独に向き合おうとしているわけでもない、惰性で余生を送る日々。

そんなある日、彼の元に、街いちばんの金持ちで名士でもあったリタという女性が亡くなり、彼女の遺言に「パットに死化粧をやってもらいたい」と書かれてあったためにと、弁護士が25000ドルのギャランティの提示とともに依頼をしに来る。が、もう自分はヘアドレッサーは引退したし、彼女は過去の顧客であり、今は関係ないと断ってしまう。

しかし、彼女の遺言をきっかけにこれまでの人生、先に亡くなったパートナーのとの過去が去来、自分にも残された時間は限られているのを感じたパットは老人ホームを飛び出し、彼女の死化粧をする為に向かうが・・・。 というストーリー。

まず、パット役にウド・キアーをキャスティングしたことに拍手を送りたい。70年代から現在まで活躍するレジェンド。アンディ・ウォーホール企画製作の「悪魔のはらわた」や「処女の生き血」、ダリオ・アルジェント監督「サスペリア」、ガス・ヴァン・サント監督の「マイ・プライベート・アイダホ」、「カウガール・ブルース」、ラース・フォン・トリアー監督の「奇跡の海」「ダンサー・イン・ザ・ダーク」などなどインディペンデント作品、大作でクセのある役を数多く演じてきた俳優。そんな彼が、自身(オープンリーゲイである)の集大成的一世一代の演技を披露。

ホームでは気難しく、一応、ゲイであることを封印して暮らす彼が、居住者の一人の髪をスタイリングするシーンの優しさは、後のシーンでもしっかり伏線として見せてくれるし、ホームを飛び出してからの彼がそれまで持っていた毒のあるウィット、そしてエレガンスさ、田舎町でゲイとして暮らしていた頃の光と陰など、一筋縄ではいかない清濁を併せ持ったキャラクターにしている。

実はそのパットにはモデルがおり、監督のトッド・スティーブンス が幼少期によく見かけた人物なのだそうだ。撮影も生まれ育ったオハイオ州で行い、登場する店も実際にあった店名を使っており、監督自身の故郷への思いも込められている。

そして注目すべきは音楽で、ジュディ・ガーランドの「The Man That Got Away」から始まり、シャーリー・バッシーの「This Is My Life」、ダスティ・スプリングフィールドの「Yesterday,When I Was Young」、シャーリー・ホーンの「Here’s To Life」、メリサ・マンチェスターの「Dont’ Cry Out Laud」といった名曲に、ロビンの「Dancing On My Own」、ル・ポール「sissy that walk」、エディ・ワーナー「supersonic love」、ダニエル・カルティエ「Hovering」など新旧取り混ぜたゲイが好きなアーティストの曲が使われているのだけど、それぞれの歌詞が、パットのその時の心情やシーンの状況と重なっていて見事!

ご紹介したSWANSONGで流れる曲のプレイリストはこちら

さらに「アグリー・ベティ」の意地悪だけど憎めないゲイで人気となったマイケル・ユーリーが監督自身を投影したキャラクターを、そして死化粧を依頼したリタ役には、80年代、「ダイナスティ」という大富豪たちのドロドロソープオペラに出演していたリンダ・エヴァンスが演じ、まさにドラマで演じた役の晩年を彷彿とさせるような“華”を、添えている。なお、彼女はそのドラマでかつてエイズで亡くなったロック・ハドソンと共演していたこと(キスシーンがあり、当時、エイズに対する無理解ゆえのゴシップで溢れた)をバックボーンとして知っていると意味深いキャスティングでもある。

人生は反芻、反省、反映を繰り返しながら送っているとは昔、通っていたバーのマスターが言ってたのだけど、この映画を見ると、まさにそうだなと思う次第。 ぜひ、映画館で今作を見て歳を重ねることをもう一度考えてみるのもいいかもしれない。

仲谷暢之
大阪生まれ。吉本興業から発行していた「マンスリーよしもと」の編集・ライティングを経て、ライター、編集者、イベント作家として関西を中心に活動。


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