「今度ちょっと刺繍の勉強しにいきませんか?」
ある日ハシモト会長からかかってきた一本の電話。

ハシモト会長とは皮革業界で知らない人はいない皮革業界のドン。
黄色い枯葉が木々の梢に揺れる、冬の澄んだ空気の朝。
約束の日、待ち合わせ場所に少し早く到着すると、久しぶりにのぞいた青空がまぶしく光っていた。

しばらくすると会長が会社の若いスタッフを連れて到着。
今回の旅のゴールは広島の美希刺繍工芸。
コンビニで買ったコーヒーを飲みながら広島に向けてしばし和やかなドライブ。

会長がおもむろに口を開く
「おおい。おまえパン食うか!?」
さっきのコンビニでパンを買ってくれていた会長。

しばらくすると会長がまた口を開く
「おおい。おまえアンパン食えや」

 

そうして紅葉する山々を縫うように車は大阪から広島へ。
「おおい 。おまえバナナ食うか!?」
またしても会長の言葉が。

紅葉を満喫しながら目的地に近くの高速で降り、お昼休憩にレストランへ。
食事をしながらも若者たちを相手に会長の革談義が始まります。

 

革と共に人生を歩んできた会長からは、いつも革にまつわる話が語られます。
本物の革とはどんなものなのか?
革というのは本来は使い込むと風合いが変わり、年月とともにエイジングするとても面白い素材。

天然素材のため当然ながら傷やシワがあるのが当たり前。
でもこの個体差のある繊細な素材は扱いにくいとされ、多くのお店で販売されている革製品は傷などを隠すための顔料を表面に塗り、化学的な方法で短時間で鞣されているものばかり。
だから革の風合いの変化や味を感じることができない。

大手の企業が避けてきた本物の革にこだわり、天然の植物性タンニン鞣し・フルベジタブルタンニン鞣しで、時間をかけて鞣し染色されたのが栃木レザー。
クアトロガッツの小さいふの定番カラーでも昔から使用しているエイジングが美しい革です。
小さい革工房や若い作り手を相手に、革の違い、魅了、エイジングを楽しむこと、こういう革の世界が広がっているということを先駆者として伝えてきた会長。

実は知らなかったのですがタンナー(革鞣し工場)から届いた革は、しばらく置いておくと味がでるのだそうです。
イギリスとイタリアのモノづくりの素材の流通の事情など、様々な話も飛び出しながらとても興味深い話を聞かせていただきました。
そうこうしている間にも約束の時間が近づき、革談義を打ち切り、目的地の美希刺繍工芸へ向かいます。

パリコレ“埋め尽くす”広島の刺しゅう製作会社

パリコレ“埋め尽くす”広島の刺しゅう製作会社」と日経ビジネスでも紹介をされる通り、美希刺繍工芸はオンリーワンの技術で織物でも編物でもない、世界にない新しいテキスタイル素材をつくる会社として世界で知られる存在。

 

美希刺繍工芸の代表の苗代さんは20代の青年時代に縫製メーカーで学んだ豊富なミシンの知識をもとに刺しゅうで独立。身につけた知識を生かして次々とアイデアを実現していくようになりました。
そんな苗代さんは「他と違うことをしないと意味がない」と言います。

 

そのポリシーのままに常に顧客が驚く「変わったもの」を提案し、その創造性や技術力の高さから、世界の著名デザイナー、国内外の著名ブランドから声がかかり、パリコレにも生地を投入しています。

ハシモト会長はこう語ります。

「今の時代は”こうだから駄目だと”様々理由をつける”言い訳の時代”」
「同じことをしていれば廃れていく。今までにない新しいことをして欲しい。」
「若い世代からその新しいアイデアが出ることを期待している」

様々な種類のすべて見きれないほどの沢山の刺繍でつくられた生地。
実際の縫製の現場まで見せていただくことができました。
本当に貴重な機会をいただきありがとうございました。