『わかる』ハシモト会長かく語りき

第47話 証言「値段をさげたらあかん」

山本昌邦
栃木レザー株式会社 代表取締役社長

金が余って人助けをする話は、よく聞きますが、橋本社長って、金がなくてもそれをやってのけるんです。うちが苦しいときも、随分と親身になっていただきました。

資金繰りに困っていた当時、「これから、そっちへ行くぞ」という橋本社長からの電話に小山駅まで迎えに出ると、ワイシャツのポケットから小さな紙を出すんです。
何かと思えば、四つ折りにした小切手。
五千万円ですよ。
それも、一回や二回ではありませんでした。

橋本社長は、「電話の声でわかるんや。声のトーンで五千万なんか、一億なんか、わかるんや」って。
次の段階の、取引銀行のことまで考えて配慮してくれるんですから、ありがたいです。

今、栃木レザーが存在しているのは、橋本社長のおかげですが、リーマンショックをきっかけに、業界に押し寄せてきた荒波に巻き込まれそうになった時も、「絶対に値段をさげたらあかん。倍にあげて勝負するんや」と言われましてね。

その通りにやってみると、うちの革を理解してくれるお店が買ってくれるようになり、これまでとは違った取引先が広がったのです。
あの時、百貨店相手の商売をしていた同業者のほとんどは、価格競争に巻き込まれていきましたね。

うちの若い連中をつかまえては「次の世界 はこれや、この世界、やろうや」っていう橋本社長の発想とか、感性はすごい。
そうしたものを考える姿勢は、栃木レザーの文化になっています。
他にも、いろんなことを教えてもらいました。


この連載について

「革っちゅうもんはなぁ、、、。」本物の革とは、商売とは、人間とは?
クアトロガッツを始めた頃に革屋さんではじまった人生談義。
それがハシモト会長との出会い。

80歳を超え、戦後からの日本を生きてこられてきた中で培われたその稀有な人生哲学と大阪ならではの人情味あふれる人柄。
「そや、ここに紙があるやろ。俺らは今までこの紙の裏をやってきたんや。いっぺん表をやろうと思うんや。」
珠玉の言葉を噛み締めていただければと思います。

『 わかる。ハシモト会長かく語りき』