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『ザ・ホエール』

4月7日(金)大阪ステーションシティシネマ、TOHOシネマズ二条、kino cinéma神戸国際 ほかロードショー

監督:ダーレン・アロノフスキー(『ブラック・スワン』『レスラー』)原案・脚本:サミュエル・D・ハンター
出演:ブレンダン・フレイザー、セイディー・シンク、ホン・チャウ、タイ・シンプキンス、サマンサ・モートン
配給:キノフィルムズ

ザ・ホエール公式HP
劇場情報

今回は、主役を演じたブレンダン・フレーザーが、今年のアカデミー賞主演男優賞に輝いた「ザ・ホエール」を紹介。

タイトル通り、まさにクジラのようにでっぷりとした身体になってしまった男、チャーリー。恋人のアランをあることで亡くしてから、そのショックで過食を繰り返し、ついに歩くこともままならないほどの体になってしまった。

現在は、大学のオンライン授業で国語の講師として生計を立てている(姿を見せないよう画面をオフにすることを忘れずに)。彼をケアしているのはアジア系看護師のリズ。ある日、診察をしてもらった彼女から、余命わずかだと知らされてしまう。
すると彼は、妻と離婚した後、疎遠だった娘のエリーに連絡を取り、関係を修復しようと試みるのだが・・・。

妻と娘を捨て、同性の恋人に走ってしまったチャーリー。それに対して当然、許せない娘。この二人の関係を軸に、看護師のリズ、そしてニューライフというカルト教団に属し、宣教師として彼に救いを与えようとやってくる青年とのやりとりが展開される。

元々は2012年に初上演された舞台を見て惚れ込んだダーレン・アロノフスキー監督が映画化を希望し、原作者のサミュエル・D・ハンターが自ら脚色して実現したもの。

舞台は初めから終わりまで、ほぼカウチに座ったまま繰り広げられていた密室劇だったのと同様に、映画もチャーリーの部屋をメインにして、彼もほぼ座ったまま。それでも映画的なカタルシスを与えてくれるのは、ダーレン・アロノフスキー監督の手腕であり、チャーリーを演じたブレンダン・フレイザーをはじめとする芸達者な役者たちのアンサンブルの賜物。

アロノフスキー監督はこれまでにも「レスラー」では、それまでの行動がたたり、キャリアが崩壊気味だったミッキー・ロークを復活させ(そういえばこの話もボロボロの中年レスラーが疎遠だった娘に会おうする話だった!)、「ブラック・スワン」では、ナタリー・ポートマンがアカデミー賞主演女優賞を受賞。女優として確固たる地位と転機を与え、今作では前記したようにブレンダン・フレイザーがアカデミー賞主演男優賞を受賞した。

「ハムナプトラ」シリーズなどで2000年代はじめはアクション、コメディ俳優として活躍していたものの、私生活で色々あったり、ハリウッド外国人映画記者協会の元会長に、若い頃に性的いたずらをされたと告発したことがきっかけで長らく停滞していた彼が見せた渾身の演技は、誰もが納得いくはず。

この映画にはチャーリーをはじめとして登場するキャラは何かを失っている。その喪失に対してどう向き合うのかが濃密すぎる5日間の中で描かれている。喪失から前へ進めない者、喪失を過去のものとして進むもうとする者、喪失に対峙して別の答えを見つけようとする者、さて、チャーリーの喪失への解答は?

ハーマン・メルヴィルが書いた「白鯨」が重要なキーワードとなり、舞台のエンディングとはまた違う、映画としての答えが用意されている。




仲谷暢之
大阪生まれ。吉本興業から発行していた「マンスリーよしもと」の編集・ライティングを経て、ライター、編集者、イベント作家として関西を中心に活動。


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