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シチリア・サマー

11月23日(木・祝)全国公開
公開劇場:大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマほか

1982年、初夏の日差しが降りそそぐイタリア・シチリア島。運命的に出会った16歳と17歳の少年たちの眩しすぎる恋は、ある日突然終わりを迎える…。揺れる初夏の光、溢れだす想い、一瞬たりとも忘れない、そして忘れたくない初恋の記憶。あの日あの時の初恋の喜びと痛みを、観る者の胸に鮮やかに蘇らせる、最高純度の実話ラブストーリー。

監督:ジュゼッペ・フィオレッロ 主演:ガブリエーレ・ピッツーロ、サムエーレ・セグレート
2022 年/イタリア語/134 分/スコープ/カラー/5.1ch/原題:Stranizza d’Amuri/日本語字幕:高橋彩/後援:イタリア大使館 配給:松竹 © 2023 IBLAFILM srl

シチリア・サマー公式サイト
劇場情報

 
 

昔から映画で描かれてきた“ひと夏の恋”というのは大抵、いい結末を迎えない。だけどその結末からは得られるものは多い。

以前紹介したフランソワ・オゾン監督の「Summer of 85」然り、ロバート・マリガン監督の「おもいでの夏」やルカ・グァダニーノ監督の「君の名前で僕を呼んで」、ウディ・アレン監督の「それでも恋するバルセロナ」、リュック・ベッソン監督の「グラン・ブルー」、ジョン・トラボルタ、オリビア・ニュートン・ジョン主演の「グリース」、ウェス・アンダーソン監督の「ムーンライズ・キングダム」、スザンヌ・ランドン監督、脚本・主演も務めた「スザンヌ、16歳」、エリック・ロメール監督の「海辺のポーリーヌ」、そして少し毛色は違うけれどルキノ・ビスコンティ監督の「ベニスに死す」と言った映画たちは、ひと夏の恋によって感傷、刹那、追憶を経て、成長と変化を促す。

今回紹介する「シチリア・サマー」も、そんなひと夏の恋をテーマにした作品。
イタリアは地中海に位置するシチリア島。
16歳のニーノと17歳のジャンニは、バイク同士の衝突事故をきっかけに運命的な出会いを果たす。育った環境も性格もまったく異なるふたりは次第に好意を持ち、友情はやがて熱を帯びた恋へと発展していくが、それは突然の終わりを迎える・・・。

今作は実際に起こった事件を元にしている。1980年10月31日、シチリア島にある果樹園の木の下で発見された男性二人の遺体。手を繋いだ状態の彼らの頭には銃弾が1発づつ撃ち込まれており、身元を調べるとジョルジオ・アガティーノ・ジャンモンナとアントニオ・ガラートラという10代と20代の若者だった。

ジョルジオは16歳の時に男性の恋人と車でいた時に憲兵に見つかり告発されてからはゲイとして周りからは周知され、自身もカムアウトしていた。そしてアントニオとは恋人同士として地元では認識されていたそう。

結局、この事件はアントニオの甥っ子フランチェスコが容疑者として拘留されたものの、当時13歳だったこともあり刑事責任を問われることはなく、また供述によればジョルジオとアントニオに脅されてやむなく発砲したと。が、供述はさらに変わり、憲兵の強要に自分は従ったとも。さらにはアントニオの家族が同性愛者を家族に持つ“恥”から逃れようとフランチェスコに依頼したという説も浮上、いまだにはっきりとした解決は迎えていないのだという。

映画は時代を少しずらし、1982年に設定、スペインで開催されたワールドカップがキーポイントになっている。この年の大会は最終的にイタリアがドイツに勝ち優勝したこともあって、徐々に高まっていく熱狂が、シチリア島に住む人々までも巻き込んでいく様が、ふたりに対する差別感などに、絶妙に対比させているのが見事。

島で暮らす中で感じる閉塞感を一軒しかないバールにたむろする若者たちや何するわけでもないオヤジたちの姿で垣間見せ、その中で格好の標的とされるジャンニの姿に、自分をだぶらせる人もいると思う。

そして舞台となる80年代にもあったマッチョイズムと男子至上主義ゆえの男尊女卑。ジャンニの母も、恋人に虐げられ、ジャンニの友人であった女性も自分を位置を存在させ守るために彼の秘密を若者たちに言ってしまう残酷さ。ましてやゲイという存在は、島の中にも、信仰的にもあってはならない時代。その中で生きる、暮らすとはどういうことかを、陽光眩しいのどかな自然の島の風景が逆に残酷さを感じさせる。

実際に起こった事件の後、アルチゲイという今も続くイタリア最大のLGBTに対しての偏見や除くための活動団体がシチリアのパレルモで設立された。

ひと夏の恋は悲しい結果を生んだけれど、それを経ての学びと進展はあった。




仲谷暢之
大阪生まれ。吉本興業から発行していた「マンスリーよしもと」の編集・ライティングを経て、ライター、編集者、イベント作家として関西を中心に活動。


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