プロデューサーズ」(2005年)

監督/スーザン・ストローマン 出演/ネイサン・レイン、マシュー・ブロデリック、ウマ・サーマン、ウィル・フェレルほか

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プロデューサーズ」GYAOにて有料配信中

2021年も間も無く終わり。ということで今回紹介する映画は、年末年始にドタバタを楽しんでもらおうっていうミュージカル作品「プロデューサーズ」を。

「サイレントムービー」や「ヤング・フランケンシュタイン」などのコメディ映画の名手、メル・ブルックス監督が1967年に製作した同名ストレートムービーを、まずはブロードウェイでミュージカル化、その舞台を演出したスーザン・ストローマン自ら監督し、舞台にも出ていたネイサン・レインとマシュー・ブロデリックが同役を演じている。

かつてはブロードウェイの売れっ子プロデューサー、でも今は駄作ばかりの落ち目のプロデューサーのマックス。 ある日、会計士、レオが派遣され、帳簿をチェックしにやってくる。 実は配当のことを考えると、成功した芝居よりも失敗した芝居のほうが利益を産むことにレオが気づき、それを聞いたマックスは破産を避けるために、世紀の最低最悪な駄作を発表しようと計画。気の弱いレオも巻き込み、奔走するが・・・。

このミュージカル、2001年にブロードウェイで開幕。マックスに前記したオープンリー・ゲイのネイサン・レイン。「Mr.レディ Mr.マダム」のアメリカリメイク版映画「バードケージ」でお馴染みになった彼だけどミュージカル俳優としてはすでにレジェンド枠な実力派。そしてレオ役には「トーチソング・トリロジー」というゲイにとって重要な映画の中で、これまた主人公にとって重要な役で出演していたマシュー・ブロデリック(「SATC」のキャリーでおなじみのサラ・ジェシカ・パーカーは奥さん!)。

そんな二人が丁々発止のやりとりを繰り広げてくれる。 実は公演が始まった2001年の秋、ニューヨークへ行く予定にしていて、このミュージカルを見たくて動いていた。でも作品の面白さ、スター俳優の出演も相まって当然のごとくチケットは完売状態。もし奇跡が起こるなら、なんとかして見たいなぁと思っていた矢先の9月11日、アメリカ同時多発テロが起こり、大変な事態に。

一緒にニューヨーク行きを予定していた友人である女流落語家の桂あやめさんと、今回は中止にしましょうか?と相談した時「こんな時こそニューヨークへ行ってお金を落とさないと!阪神大震災の時、募金も嬉しかったけど、何より私の故郷である神戸にみんな来てもらうことが励みになったから」と頼もしい言葉が不安な気持ちを払拭してくれ、テロから1ヶ月半後の10月下旬にニューヨークへ旅立った。

行きの飛行機の中はガラガラでJFK空港にも人は少なくテロの影響をモロに感じた。さらにハロウィンに再びテロが起こるかもという噂が流布していたせいかマンハッタンにも観光客はほぼおらず、個人的には機内も街中もゆっくり過ごすには最高のタイミングではあったけれど、やはり緊張感は常に漂っている感じはした。 ブロードウェイもこのテロのせいでしばらくは休演、再開してもなかなか観光客は戻らず大打撃。「プロデューサーズ」をはじめとした公演中のミュージカル出演者たちが“ブロードウェイは元気です!”というメッセージを込めたビデオを作ったほど。ゆえにあれだけプラチナチケットだった「プロデューサーズ」のチケットを無事に手に入れることができて、念願の舞台を見ることが叶ったのは皮肉ではある。

さて、舞台はまさに抱腹絶倒という言葉がふさわしいものだった。そしてカーテンコールの感動といったらものすごかった!エンタテインメントはテロなんかに屈するものかと、出演者も観客も高揚感溢れまくりの拍手をし、うねりを生んでいた。その雰囲気に呑まれ、自分も含めて多くの観客が涙を流していた。 そんな時期に見た舞台が、後日映画化されると知った時、どんな風になるのか?しかも一部を除いて舞台と同じ役者たちが数多く出ている、さらに演出のスーザン・ストローマンが監督を務めるということで期待以外ない状態だった。

でもっての今作。映画的に見ると、正直、舞台中継にプラスアルファしたような感は拭えない。どうせなら映画ならではの振り切った“映像”のカタルシスが欲しいなとは思ったけれど、舞台で繰り広げられた丁々発止のやり取りやテンポ、そして空気感と濃厚な毒、何より楽曲が最初から最後まで賑やかに繰り広げられ、笑えるミュージカルとして満足するはずだし、ミュージカル好きなら玄人好みのお遊びが散りばめられてるし(ブロードウェイの舞台に立っているミュージカル俳優やダンサーが脇役でたくさん出ていたり)、初心者には、ブロードウェイミュージカルの裏側も知ることができるので、十分に楽しめる。

個人的に今作の見どころとして、マックスとレオが最悪な舞台を作るために、最悪な脚本を選んだ後、最悪な演出家に頼んで、脚本をさらに最悪に演出してもらおうと白羽を立てるのが、舞台を何でもかんでもゲイテイストに変えてしまう、演出家のロジャー・デ・ブリー率いるLGBT軍団。 このクセが強すぎるロジャーに演出を引き受けてもらうためのシーンはお腹抱えて笑えるし(ロージャーのアシスタントのカルメン・ギアとのやりとり!)、監督もここに一番力を入れたんじゃないか?と思うくらいゲイのcampな部分を余すところなく味わえます。

そしてついに上演されるミュージカルが「ヒトラーの春」。 なんと人類史上最悪な人間のひとり、ヒトラーを主人公に繰り広げられる舞台は最悪・・・で、最高!だからこそ、この後マックスとレオの“プロデューサーズ”に予期せぬしっぺ返しが待ってるのだけど。それは見てのお楽しみ。 遊び心に徹したエンディングロールも合わせてしっかり最後まで観て楽しんで欲しい作品。

仲谷暢之
大阪生まれ。吉本興業から発行していた「マンスリーよしもと」の編集・ライティングを経て、ライター、編集者、イベント作家として関西を中心に活動。


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