妹としての視点でみる瀬戸芸
瀬戸内国際芸術祭は、島々の自然や歴史とアートが交わる特別なお祭りです。
私にとって少し特別なのは、作品を楽しむだけでなく、そこに“家族のつながり”があるからかもしれません。
実は私の兄・尾身大輔は芸術家で、この瀬戸芸にも参加しています。小さい頃から身近にアーティストがいたこともあり、私自身も自然と芸術やものづくりに惹かれていきました。
だから瀬戸芸を巡るとき、私はただの観光客ではなく、兄を誇らしく思う妹としての視点も重ねています。今回は、そんな兄・尾身大輔の作品をご紹介します。

瀬戸内国際芸術祭 尾身大輔の作品
① ヒトクサヤドカリ (sd45)
瀬戸内海を渡ってきたヤドカリが背負ったのは“貝殻”ではなく“家”。巨大なヤドカリの彫刻です。
兄から、触ったり触覚の辺りの隙間に入ったりするのは大丈夫だと許可もらいました! でも安全面から乗ったり作品の下に潜ったりはNGです。
「彫刻は立体として存在するだけで空間を変えられる。物質としてそこにあること自体が魅力」(尾身大輔)
木を素材にした作品からは、生き物の目線に立ったような世界を感じられます。

作品は少し高台にあり、本当に海から上陸してきたよう。海と大地と作品がつながって見えました。
「自然の中にあるからこそ、巨大さという違和感も空間と形で中和され、生き物のように存在できる」(尾身大輔)
自然との一体感を体験できる作品です。

② ヤザエモン蛸 (sd64)
映画村の大きな塩釜に現れたのは、香川に伝わる蛸の妖怪「ヤザエモン蛸」。
兄は以前からタコを作りたいと思っていて、映画村から「海をテーマに」と依頼を受けた際、設置場所を見てすぐにイメージが浮かんだそうです。そこから妖怪と結びつき、この巨大な作品が誕生しました。
近づいて見ると、木材の乾燥でできたパーツの境目がわかります。その隙間から「これほど細かく分けて組み上げているのか」と気づかされ、圧倒されました。
普段は制作について多くを語らない兄ですが、作品の前では少しだけ話してくれる。その姿に「本当に兄が作ったんだ」と実感します。

観光資源から地域の力へ
瀬戸芸だけでなく、アートが地域と結びつき観光資源となる例は多くあります。
「観光資源として利用されるとしても、アートを延命に消費して終わりということにならず、地域を長く支えるきっかけになってほしい」(尾身大輔)
芸術祭をきっかけに、香川や瀬戸内の魅力をもっと多くの人に知ってもらえたら嬉しいです。

尾身大輔
1992年香川県生まれ。2016年、広島市立大学大学院芸術学研究科博士前期課程修了。
木彫を中心に、神・妖怪などの民俗信仰を基盤とした自身の空想を彫刻として具現化し、近年は虫の姿を象った彫刻を制作している。
瀬戸内国際芸術祭 尾身大輔プロフィール

瀬戸内国際芸術祭
2025年秋季 10月3日 (金)〜11月9日(日)開催。瀬戸内の島々を舞台に、3年に1度開催される現代アートの祭典です。春・夏・秋の3シーズンに分かれ、季節ごとに瀬戸内の魅力が体験できます。
期間中は約100万人の人々が国内外から訪れる日本を代表する国際的な芸術祭です。
瀬戸内国際芸術祭公式HP







