『わかる』ハシモト会長かく語りき

第4話  三つ子の魂百まで「人間の行いが判についてくるもんや」

そんな親父でも、よう、京都に連れて行ってくれました。
コースはいつも同じ。
鞍馬を回って、その帰りに鞍馬貴船のひろやの河床であゆを食べてな。

特に記憶に残っているのは、三条寺町の角にある三嶋亭という肉屋明治六年の創業ですわ。
すき焼きを食べに行く時は、決まってその三嶋亭。

金はあらへんかったけど、子供の頃から、親父にはほんまもんを教えてもらった。
その味、雰囲気は、今でも忘れられませんな。

こんなこともありましたなぁ。
十二歳の時から商売のようなことを始めたんですが、七千円の金をためて印鑑をこしらえたんです。
貯金通帳をつくるためではなく、この判に値打ちをつけてやろうと思いましてね。
判子屋が印相がどうのこうの言うから、

「そんなことはどうでもいい。

人間の行いが判についてくるもんや。
とにかく、俺が言うように彫ってくれ」とね。
おかしなこという子供やな、と判子屋のおっさんは妙な顔しとりましたわ。

そら、あたりまえやな(笑)。
その判は、自分の名前を大きくして、名字を小さくしてもらったんです。
子供やからわからへん。
今でもその判、つこうとりますよ。


この連載について

「革っちゅうもんはなぁ、、、。」本物の革とは、商売とは、人間とは?
クアトロガッツを始めた頃に革屋さんではじまった人生談義。
それがハシモト会長との出会い。

80歳を超え、戦後からの日本を生きてこられてきた中で培われたその稀有な人生哲学と大阪ならではの人情味あふれる人柄。
「そや、ここに紙があるやろ。俺らは今までこの紙の裏をやってきたんや。いっぺん表をやろうと思うんや。」
珠玉の言葉を噛み締めていただければと思います。

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