『わかる』ハシモト会長かく語りき

第24話「そこは売れるんか」

太田俊明
ハシモト産業株式会社
東京営業所所長

小学生の頃、近所におもろいおっちゃんがいましてね。
泥まみれの半ズボン姿のオレたちをつかまえて、「飯食いに行くか」って。
行き先はホテルの最上階レストラン。

大阪の街を見下ろしながら、テーブルに並んだ料理の味もわからず食べたものでした。
そのおっちゃんが、橋本社長なんです。
私は息子の信一君と同級生でしたから。

フランス料理に連れて行ってもらったこともあって、
「お前ら、店出る時、ラーメンのほうがええって言ってたな」って、今でも笑い話ですよ。
社長は、フォークとナイフの使い方をちゃんとした店で教えたかったんですね。

二十一歳の頃、就職した会社を辞めるつもりで、おっちゃんを訪ねたのです。
そんな私に、「やる気があるんやったら明日からこいや」て。
それで、心を決めたんです。

入社して間もなく、東京進出の話が出ましてね。
「そろそろ引退しようと思っているんだけど、最後にハシモト産業の看板を出して仕事したいんや」という取引先の人の話がきっかけでした。
独身だった私は、「行きます」と手を挙げたのです。

まずはビル探し。
物件を見つけ、社長に相談すると、ビルの概要は一切聞かれず、「そこは売れるんか」とたった一言。大通りで売りやすい物件なら買おうかって。
その時、ビルの価値を判断する社長に、千里眼のようなものを感じましたね。


この連載について

「革っちゅうもんはなぁ、、、。」本物の革とは、商売とは、人間とは?
クアトロガッツを始めた頃に革屋さんではじまった人生談義。
それがハシモト会長との出会い。

80歳を超え、戦後からの日本を生きてこられてきた中で培われたその稀有な人生哲学と大阪ならではの人情味あふれる人柄。
「そや、ここに紙があるやろ。俺らは今までこの紙の裏をやってきたんや。いっぺん表をやろうと思うんや。」
珠玉の言葉を噛み締めていただければと思います。

『 わかる。ハシモト会長かく語りき』