『わかる』ハシモト会長かく語りき

第25話「よう頑張ったな」

太田俊明
ハシモト産業株式会社
東京営業所所長

おっちゃんから、社長という存在になって最初はとにかく怖かった。
私は人一倍怒られましてね。
掃除していると、「誰も見ていない隅々から掃除しろ」と怒鳴られて。

人間としてのマナーも厳しかった。
僕は嫌われてるのかな、辞めたほうがええんちゃうかと思ったこともあったくらいでした。
東京を任されるようになって、あの時の社長の気持ちが、少しわかるようになりましたね。

社長は人間力のある人。
懐に入れば入るほど大きくて、好きになっていく。
出るところに出た時、その人間の大きさがわかります。

気配りや思いやりもすごい。十年以上も前の話ですが、私の子どもが病気を患いまして、女房の肝臓を移植したんです。
社長が脳梗塞で倒れた1年後でした。
まだ、体調も万全じゃないのに大阪から飛んで来てくれはりましてね。

手術は二十一時間くらいかかったのですが、夜来て、朝も、昼も顔出してくれて。
社長の身体が心配で、「もう大丈夫です」と何度も言ったんですけど、辛い顔ひとつせずに来てくれはるんです。
手術の前には、社長が社内と社外の懇意にしてる人たちに声かけて、寄付を集めて持って来てくれはりましてね。

涙が出るほど、嬉しかった。
大阪に帰る前、女房に「よう頑張ったな」って声かけて帰りはりました。
もう、頭が上がらないですね。


この連載について

「革っちゅうもんはなぁ、、、。」本物の革とは、商売とは、人間とは?
クアトロガッツを始めた頃に革屋さんではじまった人生談義。
それがハシモト会長との出会い。

80歳を超え、戦後からの日本を生きてこられてきた中で培われたその稀有な人生哲学と大阪ならではの人情味あふれる人柄。
「そや、ここに紙があるやろ。俺らは今までこの紙の裏をやってきたんや。いっぺん表をやろうと思うんや。」
珠玉の言葉を噛み締めていただければと思います。

『 わかる。ハシモト会長かく語りき』