『わかる』ハシモト会長かく語りき
第47話 証言「社員の月給もあるやろ」
山本昌邦
栃木レザー株式会社 代表取締役社長
もう、三十年も前のことです。
私が商社にいた頃、懇意にしていたある問屋さんが、今日明日にもつぶれるかもしれないという状況に陥ってしまいましてね。
東京の下町にある革問屋の集積地には、その問屋さんの出身者が多く、親元の存在だったのです。
そこにおられた営業部長と私は親しい間柄でした。
当時、業界では名の知れたある会社がその間屋さんをバックアップするという噂があったんです。
でも、本当にバックアップしていたのは、なんと、橋本社長でした。
その営業部長は、橋本社長に相談に行かれたそうです。
当時、引っ張り合いの商品があって、「エナメルの革があったら助かるんですが、明日どうなるかわからない私共の会社には、どこも入れてくれないんです。エナメルさえあれば・・・」と。
そこで、橋本社長は知り合いの倉庫に山ほどあったエナメルを、デシ三十五円ですべて購入して、1トントラック杯分をその問屋さんに送り込んだのです。
六千五百万円ですよ。橋本社長は、「十一月やから社員の月給もあるやろ、ボーナスもなんとかせなあかんやろ」とね。
みんな腰をぬかしましたよ。
こんなことやるのは橋本さんしかいないと、業界で評判になったものです。
その全貌を知ったのはついこの前のことなのですが、その後、私は栃木レザーという現在の会社で、橋本社長に助けていただくことになる訳です。
すごい因縁を感じましたね。
この連載について
「革っちゅうもんはなぁ、、、。」本物の革とは、商売とは、人間とは?
クアトロガッツを始めた頃に革屋さんではじまった人生談義。
それがハシモト会長との出会い。
80歳を超え、戦後からの日本を生きてこられてきた中で培われたその稀有な人生哲学と大阪ならではの人情味あふれる人柄。
「そや、ここに紙があるやろ。俺らは今までこの紙の裏をやってきたんや。いっぺん表をやろうと思うんや。」
珠玉の言葉を噛み締めていただければと思います。
『 わかる。ハシモト会長かく語りき』