『わかる』ハシモト会長かく語りき

第10話  表の人生やろうや「うちはただ紐をつくって売りますねん」

ハシモト産業を立ち上げて、1年くらいは土日もなく、よう、働きましたね。

紳士物、アパレルなどの付属品でなんとか軌道に乗り出したんです。

ベルトとか、靴の素材の付属品、洋服のポイントなど、身につける素材の付属品ばかりをやったんです。

少量多品種のものづくりとなると、大手は出てきませんから。

大手のできないことをやったわけです。

その背景には、紐の糊付けの成功がありました。

どうやったら継ぎ目のない、細い紐ができるのか。

それが今、うちの礎になっている。

こんな話があるんです。

私の人生のなかで1番おもろかったことや。

東レのエクセーヌという商品が出た時、血が逆流するほど手に入れたいと思ったんです。

これまでの合皮というのは、三つの層が重なってできていたので糸がほつれてしまうんですが、エクセーヌは裏表がない。

切っても糸がほつれない。

一体化しているんです。当時、まだ家賃も払われへんのに、血が騒いだ私は、何のつてもなく東レの本社へ、エクセーヌを買いに行ったんです。

「当社は、世界に向かって売ります。御社は?」

「うちはただ紐をつくって売りますねん」

「当社は、お店を持っておられないところへは、売れないんです」

「何とか、売っていただけまへんか」

「日本で販売を認めるのは、一社か二社です。それ以外に売るのは難しいですね」


この連載について

「革っちゅうもんはなぁ、、、。」本物の革とは、商売とは、人間とは?
クアトロガッツを始めた頃に革屋さんではじまった人生談義。
それがハシモト会長との出会い。

80歳を超え、戦後からの日本を生きてこられてきた中で培われたその稀有な人生哲学と大阪ならではの人情味あふれる人柄。
「そや、ここに紙があるやろ。俺らは今までこの紙の裏をやってきたんや。いっぺん表をやろうと思うんや。」
珠玉の言葉を噛み締めていただければと思います。

『 わかる。ハシモト会長かく語りき』